認知症患者の資産200兆円


高齢者が増え続け、認知症患者が所有する金融資産も増え続けています。

 

2018年8月日経新聞の記事によると、2017年現在143兆円が2030年には215兆円になる予想になっています。

 

日本のGDP500兆円の4割、個人金融資産全体の1割を超える金額です。

 

このお金が、認知症によって凍結されることになれば経済に大きく影響を及ぼします。



【認知症になった後は、成年後見制度しか手が無い】

認知症になり、判断能力が無いとされると、自分で資産の管理ができません。

何か意思表示をしたとしても、それが本人の本位であるかどうかが判断できない成年からです。

故に、銀行などは認知症で判断能力が無いと分かったときには、即座に口座を凍結し引き出しなどができないようになります。

 

この際、口座の凍結を解除する手立てとしては、成年後見(法定後見)しかありません。

家庭裁判所に、本人の法定代理人となる成年後見人を決めてもらうのです。成年後見人は、後見制度のルールの範囲で資産管理をします。

 

成年後見制度は、所有者が認知症になった後(本人の意思確認ができない)に開始する代理制度ですので、非常に厳格なルールがあります。基本的に本人のためになることにしかお金は使えません。

 

例えば、今まで孫の教育費を喜んで出していたとしても、後見人が付いた後は孫のためにお金を使うことはできなくなるのです。

 

その資産が、相続により先代から受け継いだものであっても、家族の協力を得ることで形成されたものであったとしても、本人名義の資産は本人の為だけにしか使えないのです。

 

【成年後見制度は普及が進まない】

ところで、この成年後見制度ですがあまり利用が進んでいません。後見制度が必要とされる認知症患者数の5%未満の利用率となっています。

 

その理由は

・赤の他人が後見人になる。

 後見を裁判所に請求する際に、候補者として家族を申請する方がほとんどですが、裁判所が専門職(司法書士など)を選任することが増えている。(2017年の親族後見人の割合は26%)

 

・専門職後見人の報酬が発生

 専門職後見人が財産管理する事務に対しては報酬が発生します。財産の内容に応じて月額

2万円~6万円となっており、本人が亡くなるまで続く。成年後見は本人の意思が確認できないので、途中で終了することはできないのです。月6万円が10年続くと720万円になります。

 

・使途が硬直的

 成年後見は、本人の意思確認ができないので、本人の為以外には使えません。日常の生活費以外に余分にお金が必要な場合は後見人を通して裁判所の判断が必要になります。

 

このような理由で、5%未満の利用率です。95%は、本人が亡くなるまで凍結状態でおいておくという選択をしているのです。

215兆円の95%とると、204兆円もの金融資産が凍結してしまいます。



【凍結回避の制度はある】

認知症患者の資産を管理できる制度としては、成年後見のほかに「任意後見」「民事信託」があります。

 

・任意後見:本人の判断能力に問題が無いうちに、公正証書で契約をして後見人と代理権の内容を決めておき登記します。その後、認知症となったときに家庭裁判所で後見監督人を選定してもらい、契約に沿った後見による財産管理が開始するものです。

 

 法定後見と違い、後見人は自分で決めることができますので安心です。

 

・民事信託:本人の判断能力に問題が無いうちに、財産管理を任せる者を決めて信託契約を締結します。信託財産の名義は財産を託された受託者となり、以後の管理や処分は受託者がすることになります。元の所有者は、委託者の立場で契約の当事者となり、どのような管理方法をするのかを契約書で明らかにします。

 

この信託財産から発生する利益を得るのは、契約書で指定された受益者です。委託者が受益者を兼ねる「自益信託」であれば、税法上は所有権の移動はないものとなり、課税対象にはなりません。


如何でしょうか。

 

認知症で凍結される200兆円が、民事信託(家族信託)を利用して、若い世代に有効活用を考えてもらえば、自分の老後の苦労も軽減できますし、相続財産の円満な承継も計画できます。

 

認知症患者の財産を、裁判所の関与なく家族が管理できるのは、信託だけです。