こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
【本日の話題】
家族信託は、長期間にわたることが多いと思います。
信託設定当時は最善策であった内容が、社会状況の変化や法改正などにより、信託の目的達成が困難になることもあります。
そのようなとき、信託の変更はできるのでしょうか。
どのような手順で変更をするのでしょうか。
【信託の変更とは】
信託行為に定めた「信託の目的」「管理方法」「信託財産の給付の内容」「その他事項」を、信託がスタートした後に変更することです。
例えば、新しい相続法が令和1年から順次施行されますが、これにより残余財産の権利帰属者を変更した方がよい例もでてくるでしょう。
【信託法の定め】
信託の変更に関する定めは、以下の様になっています。
①信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができ、この場合、変更後の信託行為の内容を明らかにしなければならない。
-主要当事者全員の合意があれば、変更できるのは当然です。しかし、家族信託の場合、委託者や受益者の行為能力に問題がある(認知症など)ことが多いので、あまり現実的ではないでしょう。
②信託の目的に反しないことが明らかであるときは、受託者及び受益者の合意による変更ができる。この場合において受託者は、委託者に対し、遅滞なく変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
-目的の範囲内であれば、受託者と受益者の合意で変更ができる。
”信託の目的=委託者の意志”と考えれば、主要当事者の合意とも言える。
③信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときには、受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示によって変更ができる。この場合において受託者は、委託者及び受益者に対し、遅滞なく変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
-目的の範囲内であり、受益者のためになることが明白なら、受託者が変更できる。
受益者が意思表示が困難でも、受益者のための変更が可能。
④信託行為に別段の定めがある場合は、それに従う。
-信託を設定する際に、委託者と受託者で変更の手順を定める。
【弊所の運用】
弊所では、④の「別段の定め」を設定することがほとんどです。
そして、信託の目的に関しては基本的に変更不可としています。
委託者の今後の認知症による資産凍結回避を大きな目的とする家族信託では、この手法がいいのではないかと考えます。
目的変更が必要で、その時点で委託者の行為能力に問題がなければ、委託者、受託者、受益者(又は受益者代理人)の合意で変更できるようにします。
委託者が既に認知症になり、意思表示ができない場合は、目的の変更はできなくてよいと思います。信託の目的こそが委託者の意思であり、委託者の意思が確認できないなら変更してはならないのではないでしょうか。
別段の定めがなければ、① ② ③の条件で変更が可能となりますが、「信託の目的に反しないこと」や「受益者の利益に適合すること」の判断は困難であり、変更によるトラブルや争いが起きる危険もあります。
家族信託(民事信託)は、委託者の財産を家族で有効活用し、円満に承継するための制度ですので、弊所では信託設計時に「トラブルとならない為に、どうすべきか」を最大のポイントとしています。