信託と遺留分


こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


【本日の話題】

相続でよく問題になるのが遺留分です。配偶者や子など一定の相続人が取得できる相続財産の取り分の事です。

 

例えば、「全財産を私人に遺贈する。」との法的に有効な遺言があったとしても、妻には法定相続分の半分(=1/4)の遺留分がありますので、愛人に請求すれば財産の1/4を取得できます。

 

相続人の生活を守るための制度ではありますが、被相続人が財産を渡したくないと思っても、持っていかれる財産という見方もできます。



遺留分は、民法により認められた権利です。一方、信託法は民法の特別法ですので民法に優先します。

 

信託では、受益者を何代も指定することができます。税法上は、受益権を所有権と同様に扱い相続税や贈与税を課税します。

 

この場合の遺留分の扱いが問題となります。

 

【受益権の移動】

民事信託(家族信託)では、最初の受益者は委託者であることが多いです。

 

そして、委託者が死亡すると受益者が替わったり、残余財産権利帰属者が所有者になったりします。

 

その際、委託者の法定相続人の遺留分が請求できるのか否か?という問題です。

 

解釈①

受益権の移動は、死亡した受益者の受益権が消滅し、二次受益者に新たな受益権が発生するものである。

 

元の受益権が承継されたものではないので、遺留分は発生しない。

 

解釈②

税法の取扱いに準じると、受益権の移動により所有権が移動したものとみることができる。

 

よって、一次受益者から二次受益者への相続と同様に取り扱うことにより、遺留分は発生する。

 

2つの解釈が存在しており、実務上も問題になっていました。

 

制度が始まってから、10年経過しても確定されていなかったのです。

 

【2018年9月地裁判決】

遺留分に関する判例がやっとでました。

 

地裁判決ですので、これで確定というわけではありませんが、この考えが定着していくと思います。

 

この事件では、信託により受益権を委託者の相続人が取得したのですが、受益者の一人の受益権は実際には価値が無いので、遺留分が侵害されていると主張したものです。

 

これに対し裁判所は、売却や賃貸が事実上できない不動産については無効と判断しました。

 

遺留分を逃れるために、事実上価値のない信託財産の受益権を取得させる行為は、公序良俗に反し無効という解釈です。

 

この判例は、受益権の移動に対して遺留分が発生するという立場からの判断ですね。

 

まだ、地裁判決ではありますが、トラブルを発生させたくないのであれば「受益権の移動には遺留分が発生する」と考えた方がよいでしょう。


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