こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
信託で200兆円の凍結解除
貴方は、当選金を選べる宝くじが当たりました。2コースから選びます。
①1億円です。ただし、死亡するまで口座から下ろせません。
②現金で1000万円手渡し。
どちらを選びますか。①コースを選ぶ人は少ないのではないでしょうか。②コースの10倍の金額ですが、使えなければ意味ないですよね。これが凍結です。
認知症になって判断能力が無くなると、口座は凍結されます。死亡した後、相続人が面倒な手続きをして、やっと引き出し可能となります。
成年後見人を付ければ凍結解除できるのですが、家族の負担が非常に重いため、利用率は5%未満。
大半の方は、凍結した状態で放置し、家族の資産を取り崩しながら本人が死亡するまで耐えているのです。
2030年の認知症患者の資産が215兆円という研究機関の推計値が日経新聞に掲載されました。5%を後見人制度により解凍しても、200兆円は凍結資産です。GDPの4割にも相当する資産を凍結させては、日本の経済は回りません。
信託の出番です。
【後見制度は使いにくい】
後見制度が敬遠される理由は、
・基本的に本人のためにのみ財産を使う
・裁判所への報告義務がある
・専門家に報酬が発生
・本人死亡まで止められない
等があります。
例えば、本人は施設に入っており、自宅で1人暮らしとなった妻のために、バリアフリー工事をしたい。
本人が元気であれば当然に出すであろう費用であっても、本人の財産から支出すると横領とさせる可能性があるのです。
このような横領事件が多発したため、制度スタート時(2000年)には91%だった親族後見人が2017年には26%になっています。後見人候補者として家族を申請しても、家庭裁判所が司法書士などを後見人に指定するのです。司法書士の後見人が嫌だからと、成年後見の申請を取り下げることは許されません。
一旦申請をだすと、本人が死亡するまで後見は続きます。
【民事信託(家族信託)で凍結回避】
認知症になる前に信託で財産の名義を受託者に変更します。
信託により名義人となった受託者は、完全所有権者(≠所有者)として財産の管理から処分まで、信託目的達成のために自身で判断します。元所有者(委託者)が認知症になっても、一切支障がありません。
家族の資産を家族で活用する。当たり前の事が、信託によって適法に継続できるようになるのです。
認知症患者の財産を、裁判所の関与なく家族で管理できるのは、信託だけです。
【認知症にならなくても】
高齢になると、考え方が保守的になる方が多くなります。
賃貸物件の将来的な資産価値向上を図る投資などが滞ると、価値が低下して空き部屋が増加する。相続する相続人には大きな負担となります。相続した後、自分の財産を使って大規模修繕などをしなければなりません。
将来の相続人を受託者にしておけば、自分が引き継ぐ物件を信託財産を使って大規模修繕もできます。信託期間中を通して受託者として管理し、相続後は自分の所有となります。
【所有権は権利+義務】
所有権は、自分の思うとおりに財産を使うことができる権利ですが、財産を維持管理するための義務もセットになっています。
税金の支払いや、保険の加入、工事が必要な場合の業者との交渉や契約事務、賃貸不動産の賃貸人との契約や賃貸人間のトラブル対応等様々あります。
信託を設定すると、利益を享受する権利の部分は持ちつつ、面倒な義務の部分を受託者に任せることができます。旧民法では、60歳を過ぎれば子に家督を譲り隠居することができました。隠居の場合、その後の収入は新戸主の判断によりますが、民亊信託(家族信託)では、財産から発生する利益は持ち続けることになっています。
旧民法の隠居を超える「スーパー楽々隠居」になれるのです。