こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族の信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
信託終了後の登録免許税
不動産の所有者が変更されたとき、所有権変更登記が必要になります。その際、登録免許税が課税となります。
登録免許税は、相続による場合は0.4%それ以外は2%となります。信託終了により委託者の相続人が新しく所有者になるとき、信託契約書の書き方により相続によるとみなされ0.4%になるかどうかが変わります。
【登録免許税法】
信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であって、かつ、当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人であるときは、当該信託による財産権の移転の登記又は登録を相続による財産権の移転の登記又は登録とみなして、この法律の規定を適用する。
理解しづらい条項ですが、超おおざっぱに言い換えると、
信託スタートのときから委託者が受益者であり、当初委託者の相続人が残余財産受益者である場合に限って相続とみなす。
ということのようです。
【委託者の地位】
信託において、主要な3人のうち受託者の地位は相続しません。委託者がこの人であれば財産を託すことができると選んだ人であり、相続により承継できる地位ではありません。
一方、委託者と受益者の地位は相続します。ただし、契約書により相続しないとすることができます。特に、委託者は信託が問題なく運営されている間は特に行使すべき権利もないので、委託者の地位を消滅させることも可能です。ですから、受益を取得しない当初委託者の相続人から信託を妨害されないように委託者の条項を作ることは多いです。
登録免許税法における、「委託者のみが信託財産の元本の受益者」とはどのような状態でしょうか。文字通りであれば「委託者=受益者」ということになります。
例えば
委託者A 受託者T 受益者A でスタートし、
Aの死亡で受益者がBになるとした場合に、委託者もBになるということです。
受益者の死亡により次の受益者に権利が移動する際に、委託者も同じように移動しなければなりません。その後、信託終了後に当初委託者の相続人が権利帰属者であれば、相続による所有権の移動とみなされ、0.4%の登録免許税が適用されます。
前述のように、委託者の妨害予防の対策をすると、0.4%の適用外と判断されることがあるのpです。
【確実に0.4%としたい】
しかし、この登録免許税の条文ですが、解釈が非常に難しく、委託者の相続人が信託終了後の所有者になる場合でも、「委託者=受益者」と見るかどうかが、法務局により差があるようです。
確実に、0.4%適用をしてもらいたいのであれば、信託契約書に「委託者=受益者」ということ、又は、登録免許税の扱いについて明確にしておく必要があります。具体的には、以下のような条項が考えられます。
・委託者の権利は当初委託者の死亡により消滅する
(権利帰属者となる地位は残しつつ、権利を消滅させて妨害を回避)
・委託者の地位は相続により承継しない。ただし、登録免許税法上の扱いについては除く。
(委託者はいなくなるけど、登録免許税法上の扱いは委託者の相続人が委託者になると取り扱ってください)
・委託者の地位は相続により承継せず、委託者の死亡によりその地位は受益者へ移転する。
(当初委託者の死亡により、受益者が委託者の地位を取得する)
現在の対策としては、このようなことが考えられます。
信託の登記関係は、解釈が確定していないことも多くありますので、対処方法も替わる可能性があります。信託組成の時点で考えられるベストな対策を講じておくことが必要です。
残余財産の固定資産税評価額が1億円の場合
0.4%=40万円 2%=200万円 160万円の差となります。
また、相続とみなしてもらえないと、不動産取得税(3%または4%)が課税される可能性も出てきます。