こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
上場株の信託
超低金利が続き、銀行にお金を預けていても全く増えません。最近は、株式などの投資をする方が急増しています。国としても、イデコやニーサなど、優遇措置を付けて投資を後押ししています。
高齢者の資産にも、有価証券が増えています。しかし、有価証券は預貯金よりも管理が難しい面がありますので、管理運用を民事信託(家族信託)で子に託したいという方が多いようです。
これまで、証券会社が信託口口座開設を不可としていたため、民事信託(家族信託)を組成する際には、株を売却し現金としてから信託財産としていました。
しかし、最近になって信託口口座開設に対応する証券会社が出てきました。
実際には、株式の信託はどのようにするのでしょうか。
株を信託する
【信託口口座の開設】
信託口口座の開設条件は、法の定めはなく証券会社が独自で設定しています。しかし、各社共通する部分も多く、以下のようなものがあります。
・委託者と受益者が同じ「自益信託」である。
・委託者兼受益者の死亡が信託終了自由となっている。
・後継受託者の定めがある。
・受益権の譲渡が禁止されている。
・契約書が公正証書で作成されている。
・特定口座、NISA口座の利用はできない。
・受託者が委託者兼受益者の一定の親等の親族。(1親等、2親等など)
・委託者兼受託者および受託者が個人。
・推定相続人全員の合意があること。
・配当金は信託口口座でのみ受け取り可。
・出金先の銀行口座が受託者名義の信託口口座であること。
高齢な親の保有株式を、子が受託するにあたり、相続人に反対する者がいないのであれば、信託財産として運用できそうです。万が一、親が認知症になっても、運用は継続できますし、施設入居などでまとまった現金が必要なときは、受託者の判断で現金化もできます。
注意点としては
・委託者から受託者に名義が変わるので、株式の保有期間がリセットされる。
➢株主優待等に影響が出る可能性あり。
・証券会社を変更する場合には、移管手数料がかかる場合がある。
・特定口座が利用できないため、確定申告をしなければならない。
・株主名簿は受託者名義となるが、支払調書等のあて名は受益者となる。
・証券会社独自の信託契約書のひな型ひなに沿った契約を求められる場合もある。
等です。証券会社により対応がまちまちですので、個別の交渉が必要となります。
【課税関係】
上記のように、証券会社は自益信託のみ受け付けますので、信託組成時には課税はありません。(利益を受ける権利が委託者=受益者なので移動しない。)
信託期間中の税務上の所有者は受益者です。
株券の名義は受託者であり、運用や配当金の受け取りは受託者の名義で行うが、譲渡損益や配当金などは受益者の収益や費用とみなされて課税となります。
【損益通算】
不動産を信託財産としたときの損失は、損益通算が求められないが、有価証券から生じる損失については損益通算をすることができる。
複数の信託契約間での損益通算も可能です。
【信託終了時】
まず、受益者と残余財産帰属権利者が同じ(受益者が生存中に終了)場合には、課税関係はありません。
受益者死亡により信託終了の場合、遺贈により委託者から残余財産帰属権利者が取得したものとして相続税の対象になります。
課税評価額は、受益者が所有していたものとして評価されます。
以上のように、株式を信託財産とした場合に、特定口座を利用できないというところが、受託者にとっては負担になるようです。株式等に慣れていない受託者に、一般口座による株式の運用を託す場合には、実際にできるのかをしっかりと話し合うことが大切になりそうです。