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民事信託を勧めない場合


こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


民亊信託を断念した例

民事信託は、家族の財産を家族で管理できる素晴らしい制度です。

 

しかし、万能というわけではありません。この制度によりうまく財産管理ができない場合もあります。

 

弊所でも、民事信託の組成をお断りした例があります。


【民事信託と後見制度】

民事信託では、財産を信託財産に変換して、受託者が管理処分権限を持ちます。

 

元の持ち主である委託者が認知症などで判断能力がなくなったとしても、支障なく財産の活用が継続できるのです。成年後見制度では、判断能力の無くなった被後見人の財産を、裁判所が指定した後見人が管理処分できるようになります。

 

後見制度では、後見人に司法書士などの専門家が指定されることが多く、報酬が発生すること及び、裁判所の管理により制限が多いことなどが敬遠されて利用者が伸び悩んでいます。

 

対して、民事信託では家族が管理できるので、継続的な報酬も発生しません。裁判所などの監督もなく、家族の意思で管理処分ができるのです。歴史が浅いこともあり、まだ後見制度より利用件数は少ないですが、近年利用件数は伸びています。

 

【民事信託は危ない?】

民亊信託に否定的な意見としては、外部の監督がない財産管理の危険性を指摘されます。「裁判所への報告義務などがなく、信託財産からの収益もない場合には税務もありません。受託者の受益者への報告義務はありますが、家族内で完結するので適切に処理されているのかが確認できない。」ので、危険というのです。

 

この意見は、私も正しいと考えます。受託者に悪意があれば、好き勝手な財産管理ができてしますのです。

 

否定的は意見は、性悪説に立ちます。ですから、このような懸念がある場合には民事信託はお勧めできません。

 

しかし、性善説に立ち、家族の財産を家族の幸せのためにために活用できるのであれば、民事信託は最善の財産管理方法です。

 

例えば、「お父さんの給料をお母さんが管理して、家族全員のために使う」のも、信託と同じシステムです。お母さんの管理を家族が信頼して任せるのです。お母さんの管理をお父さんが認めないとなると、家族は成り立ちません。

 

【家族信託を断念した例】

お父さん(75歳)の財産(不動産・金銭)を長男を受託者として信託するというお話しでした。お父さんが高齢で、身体的な障害もあり不動産などの管理が困難な状況でした。

 

家族関係は、父、母、長男(別居)、長女(別居)です。長男と母親の仲があまりよくない

状況でした。

 

最初のご相談の時には、家族全員が民事信託の財産管理を希望されていることが確認できましたので、信託設計図の作成に着手しました。

 

<委託者と受託者の意見の食い違い>

委託者は、不動産と不動産管理に必要な金銭を信託財産とする考えです。

ところが、受託者は信託できる財産すべてを信託財産としたいと希望されました。

 

長男は、母親に信託しない金銭を勝手に使わせたくないと考えたようです。家族の財産を保全するため、全財産を管理できなければ受託者を引き受けないと主張されました。

 

民亊信託は、委託者の希望を叶えることが一番の目的です。委託者が自由に使えるお金がなくなるような信託は、委託者が望むものではありませんでした。

 

残念ですが、民事信託の組成は断念しました。

 

【民事信託が向いている家族】

上記のように、民事信託は性善説に立つ制度です。受託者は委託者の希望を叶えることを目指し、委託者及び他の家族が受託者を信頼して管理を任せるという関係が必須です。

 

そのうえで、信託財産の管理処分が適正に行えるように信託契約により、家族の関わり方を設定します。

 

委託者が認知症になったら、

施設に入ったら、

亡くなったら、

 

受託者が事務処理をできなくなったら、

不正をしたら、

辞めたくなったら、

破産したら、

亡くなったら、

 

受益者が認知症になったら、

亡くなったら、

 

受益者代理人、信託監督人などを設定するか、

 

終了事由の設定

 

その他個別の条件設定

 

などを考慮して、その家族に最適の信託を組成するのです。

 

 

民亊信託は、家族の信頼関係があって初めて成り立ちます。

裁判所の関与もなく、継続的な費用が発生しない、家族による財産管理が可能となります。