こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
銀行の家族向け信託とは
民事信託(家族信託)は、家族が受託者となるのが本来の姿です。家族がするからこそ、家の財産が守られるのです。
今の民法では、財産は個人の所有であるため、所有者が管理できなくなると途端に使えない財産となってしまいます。
受託者は、家族に適任者がいない場合、家族以外でも信頼できる人がいれば引き受けてもらえば可能ですが、どうしても受託者が見つからないこともあります。
そのようなときは、成年後見制度を検討する前に、銀行の家族向け信託商品も検討することをお勧めします。
【受託者の条件】
受託者になれる人に特別の資格はありません。
意思能力のない人が慣れないのは当然ですが、個人だけでなく法人も受託者になることが可能です。信託期間が長期のなる場合などは、受託者をするための会社(一般社団法人)を設立して信託を組成することもあります。法人にすることで、受託者の認知症や死亡などのリスクが軽減できるのです。
受託者は、原則無報酬で行います。
賃貸不動産の管理など、特別な事務が含まれる場合に一定の報酬を設定することは可能ですが、原則は無報酬です。そして、受託者は信託財産からの利益を取得することは許されません。
信託業法の資格を受けた株式売社は、業として受託者となることができます。
信託銀行などは、業として受託者となります。
これまでは、富裕層向けの投資信託などがほとんどでしたが、最近は資産運用ではない民事信託でするような信託サービスを出す会社が、増えています。
【家族でする信託と、銀行の信託の違い】
民事信託の場合、素人が受託者をしますので、事務処理などで軽減することができます。善管注意義務を少し軽くしたり、事務を他人(業者など)に依頼することが許されます。
銀行が受託者をする場合は、そのような軽減措置はありません。プロがするのですから、善管注意義務も厳格に守らなければいけませんし、管理を他に依頼することなく自社でしなければなりません。そのため、民事信託よりは融通の利きにくい管理となってしまうことは否めません。
逆を言えば、きちんと管理してもらいたい場合は、安心は大きくなります。
【信託財産・費用】
家族型の信託を取り扱う銀行は、メガバンクを中心に増えてきてはいますが、地方ではまだ少ないのが現状です。
民事信託では、農地や年金口座以外はほとんどの財産を信託財産とできます。
銀行の信託では、基本的に金銭のみの信託となります。
銀行によりますが、最低金額が設定されていることがほとんどです。(3000万円程度が多い)
銀行は業として受託者となりますので、当然に費用が掛かります。
これも銀行により様々ですが、設定時には信託する金額による設定費用が掛かり、期間中の継続的な費用が設定されていることが多いようです。インターネットで調べた限りでは、設定時の費用は、2.2%程度が普通でした。(信託3000万円⇒66万円)
【選択肢】
民事信託の理想を考えれば、将来相続人になる人の中から、事務管理能力がある人を受託者として設定するのが一番です。
例えば、信頼できる推定相続人はいるが事務管理能力が不足している場合は、面倒な部分を第三者(不動産業者や税理士など)に委任することを許可して組成することができます。
信頼できる推定相続人がいないが、相続人以外の親族に安心して任せられる人がいる場合は、その方に受託者を引き受けてもらい、若干の報酬を設定したり、受益権を取得させることができます。
身近に受託者を頼める人がいない。金銭以外の財産は信託する必要が無い場合は、今回紹介したような銀行の家族型信託の利用を検討するのがよいでしょう。信託受託者のプロですから、信託契約の内容が確実に履行されます。
身近に頼める人がいない。不動産の管理も必要で、財産を自己のためだけに管理してもらえばよいという場合は、成年後見制度の利用を考えるのが現実的です。成年後見制度は、認知症などにより事理弁識能力が不足してから開始します。
親等内の親族が申し立てできますので、そうなったときには申し立てをするように頼んでおきましょう。継続的な費用は掛かりますが、裁判所の管理の下で司法書士などの専門家が後見人として財産管理と、介護保険の手続きなど身上監護を確実にしてくれます。
成年後見で専門職後見人がついた場合の報酬は、月額2万円~6万円です。
※銀行の信託を利用する場合にも、信託の制度を理解していないと希望通りの信託とならないことがあります。民事信託の専門家に相談し、銀行にも同席してもらうと安心できると思います。