介護にかかる家族の負担を軽減


こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


民事信託(家族信託)で家族の介護負担を軽減

親に介護が必要な状態になると、大きな負担が家族に発生します。

 

認知症で、口座が凍結されたりすると、お金が引き出せなくなり、経済的にも苦しくなります。口座を使えるようにと成年後見制度を利用すると、司法書士などの専門職が家庭裁判所に選定されることが多く、月額2~6万円の報酬が発生してしまいます。

 

「親の財産を使って、親の生活を保全する」という当たり前の財産管理を、民事信託(家族信託)で実現しましょう。

 


【介護による経済破綻】

内閣府が作成した「世代別金融資産分布状況」というグラフによると、2014年時点の金融資産の保有率は60歳以上64.5%、70歳以上30.9%となっています。60歳未満の保有率は35.5%です。

 

80歳の親が認知症になったとき、子の年齢は60歳未満という場合が多いでしょう。万が一親の財産が凍結されてしまい、成年後見制度を使わないとすると、子の財産で親の生活を賄うことになります。保有金融資産が多くなく、教育費や住宅ローンなど支出の多い年代が経済的に厳しい状況に追い込まれる可能性が高くなります。

 

最悪、経済的」支援が難しく、施設などの費用を抑えるため離職して介護する「介護離職」などにより、家族の生活が破綻に向かうという問題も発生しています。

 

万が一認知症になったとしても、高齢者の金融資産を有効活用して、生活を守る民事信託の利用が増えています。

 

【自由な財産活用】

民事信託では、まず信託目的を決めます。本人の生活や福祉を守るだけでなく、資産の円滑な承継や孫の教育費など、後見制度では認められない使途も設定できます。

 

毎年、家族の親睦を図るために、自分で費用を出して家族旅行をしていた方であれば、認知症になった後も、同様に信託財産から費用を支払って継続することができます。本人以外に使うことも、信託目的の範囲内で可能なのです。

 

【本人のために家族で使う】

認知症になって、判断能力が衰えると周りの援助や介護が必要になります。これをすべて家族でやるというのは困難です。家族が疲労してしまうと、最終的に本人の生活が守れません。

 

私個人の考えですが、介護保険などは積極的に利用し、家族も余裕を残したうえでできる限りの介護や援助をすべきではないでしょうか。そのためには、親の財産を活用するべきです。

 

凍結された財産は、死亡して相続財産として分割するまで使えないのです。親が生きている間に、親のために使うことこそ資産の有効活用です。

 

【認知症対策民事信託の例】

委託者兼受益者:母親(83歳)長崎県在住

        夫の相続で金融資産を3000万円取得。その後認知症を発症。

受託者    :長男(55歳)東京在住

        父親の相続では、財産を取得しなかった。

 

長男は、父親の相続のときには母親の認知症を考えていなかった。母親の認知症を知り、口座をロックされると、自分の財産で母親の生活を守ることが困難となる。しかし、母親の財産が活用できれば、豊かな生活が確保できると考え、民事信託を組成した。

 

なお、認知症で判断能力がなくなると契約できませんが、初期の段階であれば有効に契約ができます。

 

信託目的は、母親の生活と福祉を守ること、家族が母親の支援をしやすくすることにしました。長男は東京在住ですが、母親のために移動する場合の交通費や宿泊費なども信託財産から支出できることとして、母親の生活保全に係る家族の経済的負担も軽減できるようにしました。

 

長男は、相続財産を取得ることを期待してはいませんので、母親のために財産の活用ができるはずです。兄弟にも信託期間中の計算書の報告をすることなどで、チェックできるルールも設定しました。

 

その家族に最適な管理方法を設定できるのが、民事信託の最大の魅力です。