こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
空き家になった実家を信託
所有者不明土地や空き家の問題を解決するため、相続登記の義務化が間もなく始まります。
相続登記の不備が、一番の原因となっているからです。
しかし、法律が施行され登記の不備は減少するとしても、円満な相続につながるとは言えません。
認知症対策として利用されることが多い信託ですが、相続財産の分割においても有効な手段として利用が可能です。
【 状 況 】
田舎の実家に住んでいた両親が亡くなりました。
相続人は、長男A(72歳)・二男B(69歳)・長女C(65歳)
相続人は、それぞれ県外に家を建て、実家に戻ることはない。
遺産は、実家の土地建物と預貯金。
【遺産分割協議】
相続人の遺産分割の希望をまとめると以下のようになります。
・遺産は平等に分けたい。
・実家を欲しい者はいない。
・建物は築年数が古く、賃貸するのは不可
・実家には親の荷物もあるし、思い出もあるのですぐに取り壊しはしたくない。
・地元には、親せきもいないので、法事などの時には実家を使いたい。
・7回忌が終わったら、建物を撤去し更地にして売却を図りたい。
兄弟間の関係は問題なく、意向もほぼ揃っている。
共有で相続登記をすると、一人でも認知症になると売却など処分ができなくなる恐れがある。
相続人も高齢なので、認知症や自身の相続も考えなければなりません。
相続財産の金銭は極わずかであり、遺産を3等分するのは困難です。
【信託で分割】
相続人3人は、民事信託(家族信託)を使って7回忌まで祭祀を行い、その後実家を解体して更地として処分し、残余の金銭を平等に分割することとしました。
<遺産分割>
長男Aは遺産すべてを取得し、その財産を信託財産として信託契約を締結する。
Aは、相続の代償として、B・Cに3分の1の受益権を取得させる。
<信託契約>
委託者:A
受託者:D(Aの長男35歳)
受益者:A1/3・B1/3・C1/3
信託目的
実家不動産の管理
両親の祭祀主催
実家不動産の処分
信託終了事由
7回忌終了後、実家を換価処分できたとき
【信託のメリット】
・受託者一人の管理で、両親の祭祀ができ、空き家となった実家の適正な管理が可能となる。
・高齢の相続人は、本来自分ですべき上記事務を信頼できる受託者に任せられる。
・万が一、相続人が認知症になったり、相続が発生しても問題は発生しない。
・空き家の管理は、信託金銭で固定資産税や火災保険を支払い、空き家管理業者に有料で定期的な点検や
メンテナンスを実施することが可能となる。
・残余財産は金銭で分割できるので、平等に分けることができる。
相続人の希望をすべて叶えることが可能となりました。