一人暮らしの老親の財産を守る

こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。

一人暮らしの老親の財産を守る

2019年時点での独居老人は736万9千人と言われています。(国民基礎調査)

65歳以上の人口は3763万1千人でしたので、5人に一人が一人暮らしとなります。

心細い一人暮らしの高齢者に、言葉巧みに近寄り財産をだましとる輩は後を絶ちません。「お子さんのために」と言われて不必要なものを買わされ、老後の資金が不足すれば、人生の最後の期間がつらい生活となってしまいます。

 

消費者保護法などにより取り消しできる場合でも、一度支払った金銭を取り戻すには法的手続きが必要となり、実際には困難です。不法な商売をする相手ですから・・・・

 

 

【財産は所有者が全権を持つ】

 

財産の処分権限は、所有者が持ちます。

民法により、法律行為(売買契約など)をしたときに、意思能力がなかった場合は法律行為は無効とされています。

成年被後見人として登記されている方は、後見人により取り消しができます。

しかし、認知症患者が推計で600万人以上いるとされている現在でも、成年被後見人として登録されているのは17万5千人程度しかいません。被保佐人・被補助人・任意被後見人を合わせても23万2千人程度(令和2年12月31日現在 最高裁判所資料)

 

認知症で意思能力が欠如していたり不足していても、後見制度による保護を受けられる人はごく少数です。法的手続きを踏んで、契約時に意思能力が無かったことを主張しなければなりません。

 

認知症でなくても、高齢になると適切な判断ができなくなることは多いと思います。標準的な費用の何倍もの金額で不必要な自宅の補修工事などをされてしまうこともあります。契約時に意思能力があれば契約は有効です。その金額が高くても、双方の合意により契約されていれば有効なのです。

 

財産は所有者が自由に使うことができますから、無駄な使い方をするのも自由です。ギャンブルで散財するのも所有者の自由なのです。

 

消費者契約法により、「契約時に不当な行為があり、消費者に誤認・困惑が生じ、その結果契約が締結されたときは、取り消し権が発生する。」とはなっていますが、支払ってしまった金銭を取り戻すことは容易ではありません。

 

【財産を守る】

 

上記の様に、成年後見制度を利用すれば、後見人が契約を取り消すことができます。被後見人の契約に対しては、原則として被後見人に取り消し権があります。後見人には、司法書士や弁護士がなる場合が多いので、法的手続きは問題なくできるでしょう。任意後見や補助・補佐では取り消し権がなく少しハードルは上がりますが、裁判所が関与していますので不当な契約の場合は、救済できる可能性があります。

 

このように、所有者の行為を後から取り消すのは何かと大変です。

 

民事信託(家族信託)を設定すれば、信託財産の管理処分権限は委託者(老親)から、受託者(子)に移動します。

老親は、信託財産を使って支払うことはできません。受託者が支払いを判断します。

 

信託財産には所有者はいません。

 

受託者には善管注意義務があり、不当な支払いは拒否しなければなりませんので、被害を未然に防ぐことができます。


受託者は、信託の本旨に従い信託財産の管理処分をする。受託者自身の財産と分別して、善管注意義務を負う。

善管注意義務に違反して損害が発生した場合、受託者個人の財産で損失補填しなければならない。