受託者の交代

こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、

身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


受託者の交代

高齢の親を受託者として、死亡により終了とする民事信託では、子が受託者となれば一人の受託者で終了まで行けることが多いと思います。ただし、不測の事態に対処できるように二次受託者は決めている方が安心です。

 

しかし、障害を持つ子の親なき後信託や受益者連続型信託では、終了まで長期間になることが想定されます。そうなると、受託者も年を取りますので、受益者が交代することを前提に信託を組成する必要があります。

【受託者がいつまでやれるか】

二男30歳に知的障害がある。

70歳の父親と40歳の長男が信託契約を締結し、二男の生活を守りたいという場合、

二男が95歳までと考えると、65年間信託が続くことになります。

長男は、信託終了時には105歳です。

それまで生きているか分かりませんし、生存していたとしても受託者の仕事ができる可能性は低いと考えます。

 

障害を持つ子のために、お金を貯めてきた親の気持ちとして、赤の他人に管理をされたくないという場合が多く、成年後見は使いたくないという希望を聞きます。兄が弟のために受託者をやるというのが、家族の希望となります。

 

これまでは、親が面倒見てきたのですが、高齢になり管理が難しくなったので信託を使うのです。長男も、30年すれば今の親と同じ年齢です。病気などが無いとしても、長男が受託者として任務を遂行できるのは30年程度ではないかと思います。

 

【二次受託者】

当初の受託者は長男として、二次受益者を決めておくことはできます。

例えば親が受益者の信託であれば、他の兄弟を二次受託者に指定しておけば、万が一長男に何かあっても信託は継続できます。

しかし、長男が30年受託者を務めた後に受託者となる人を現時点で指定するのはなかなか困難です。

30年後、受託者交代時に30歳くらいの人と考えると、現在は赤ちゃんとかまだ生まれていない人になります。30歳になったときどんな人になっているか分かりませんし、どこにいるかもわかりません。

 

【受託者指定権者】

受託者の任務遂行に支障が出てきたとき、次の受託者を指定する権利を持つ人を決めることができます。

受託者本人が指定権を持つようにすることもできます。

高齢となったとき、受託者がその時点で信託財産を託せる人を次の受託者として指定し、受託者を交代するのです。

長男は、受託者としての使命を終え、自分の老後を穏やかに過ごせるようにします。

 

【後継受託者がいない】

後継受託者が見つからない場合はどうすれば良いでしょうか。

その場合は、信託を終了しなければなりません。

信託を終了したとき、その後をどうするかも決めておきます。

具体的には、

⑴信託財産の残りをどうするのか

⑵二男の財産管理をどうするのか

です。

これも、信託契約書で決めておくことになります。

 

長期間の信託を組成する場合は、想定しなければならない事項が多岐に渡りますので、慎重に検討しなければなりません。

 

【最後は成年後見】

後継受託者が見つからないときは、近親者に頼める人がいないということです。

そのような状況であれば、成年後見制度を使うのがベストではないかと思います。

裁判所が選定した専門職が、裁判所の管理下で厳正に財産を管理します。

認知症患者など増え続けていますので、30年後でも成年後見制度は存在しているはずです。

 

信託契約書で、後継受託者が決まらない場合は、長男が退任するときに後見人の申し立てをして、残余財産を後見人に引き継ぐような条項を定めておくと安心ではないでしょうか。

受託者の最後の仕事として清算受託者になり、清算事務として後見人を申立て残余財産を後見人に引き継ぎ、信託を結了させます。