こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。
民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われだしたのは最近の事で、
身近で実例を見た方は少ないと思います。
この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。
抵当権付き不動産の債務
アパートや駐車場など収益を得られる不動産を所有しているオーナーが高齢となったとき、その経営は徐々に困難になっていきます。
・管理が困難(身体的衰えにより、状況把握や建物の手入れ)
・認知症のリスク
認知症になると法律行為ができない(入居者、不動産管理会社、銀行等との交渉
や契約行為)
・積極的な投資ができない(銀行からの融資が難しくなる)
これらの問題を解決する方法として、次世代の子に管理権限を委譲する民事信託(家族の信託)は有効に作用します。
【所有者の法律行為】
不動産所有者は、その不動産に対して強力な権利を持ちます。
不動産に関する法律行為もすべて所有者の判断によりされます。
賃貸アパートであれば
・賃借人との契約
・保険の加入
・工務店との交渉、契約
・銀行との交渉、融資申し込み
・・・・など、すべて所有者の判断になります。
ただし、所有者が正式に委任をすれば家族や第三者に代理してもらうことも可能です。
しかし、所有者が認知症で意思能力が無くなると、委任することができませんので、法律行為ができません。
その結果、建物の手入れが滞ることで荒廃が進み、空き部屋が発生します。
新たな賃貸契約を結ぶことができませんので、空き部屋は増え続けます。
所有者が死亡して、相続人が管理できるようになるまでこの状況が続きます。
【抵当権付き】
賃貸アパートなどを相続税対策として所有する場合には、銀行から融資を受けていることが多いです。
銀行融資がある場合には、抵当権が設定されます。
もし、債務の返済が無ければ銀行が競売により債権を回収するためのものです。
抵当権付きの不動産を信託するとき、銀行は関係なく信託登記は可能です。
しかし、銀行の了承なしに信託登記をすると、最悪「債務の一括清算」を請求される可能性があります。
そのため、銀行の承諾を得るのですが、その際債務をどうするかという問題があります。
管理処分権限は受託者に移りますので、親の債務は無しにして受託者の債務にしてもらえるとすっきりします。(免責的債務引き受け)
しかし、実際には親の債務は残したまま、受託者を連帯債務者として設定することを求められることが多いようです。(重畳的債務引き受け)
免責的債務引き受けであれば、委託者は債務者ではなくなりますので、相続発生時に法定相続人に債務が引き継がれることはありません。
しかし、重畳的債務引き受けの場合には、委託者個人の債務として負の相続財産として持ち続けます。また、相続発生前に債務に関する法律行為(金利変更など)の際に、委託者の関与が必要になります。委託者が認知症になった場合には、この法律行為ができなくなりますので色々と支障が発生します。
このように考えると、銀行の立場からしても高齢の委託者を債務者から外した方がいいのではないかと思うのですが、「請求先は多い方が債権回収に有利」という考えからか重畳的債務引き受けを求められることが多いようです。
抵当権の設定された不動産を信託する場合には、まずは銀行との交渉が必要です。
高齢の親が所有者および債務者のままで、万が一認知症になったら、せっかくの資産が有効に活用できません。
銀行との有効な関係も継続しながら、次世代への資産承継を円滑に進めるため信託を活用してください。