受益権の債務控除
相続税の節税対策として、借金をして不動産にお金をかけるという手法があります。
相続時に借金が残っていれば、マイナスの財産として差し引かれますので相続財産価格が少なくなります。不動産にお金をかけても、掛けた金額より評価額は低くなりますので、節税対策になるのです。
民事信託でも、自宅不動産や収益不動産を信託財産とすることがあります。銀行融資を受けて、取得したり大規模改修工事をした後、受益権が移動したり信託終了した場合にはどのような扱いになるのでしょうか。
【信託財産の範囲】
委託者の財産から分離可能な管理承継できる価値のある財産が信託財産となります。原則的には、プラスの財産です。
ただし、以下のようなマイナス財産は、「信託財産責任負担債務(信託財産を使って返済できる債務)」とすることができます。
⑴信託財産について、信託前の原因で生じた権利
⑵信託前に委託者に生じた債権で、信託財産責任負担債務と定めた債権。
⑶信託財産のために受託者の権限内の行為により生じた権利
⑷信託財産のために受託者の権限外の行為により生じた権利
信託以前からあった委託者の債務や、受託者が信託期間中に受託者として信託財産の管理処分で生じた債務が当てはまり、
受益者の死亡により受益権が移動するときには、みなし相続として財産を評価することになります。
【受益者が交代して信託が続く場合】
委託者が当初受益者となり、委託者が亡くなって2次受益者が受益権を取得して信託が続く場合です。
父親が委託者で、父親死亡後に母親が2次受託者となって信託が継続することはよくあります。
この場合、相続税法により、2次受益者は負債も遺贈により取得したものとみなされます。
プラスの財産が5000万円でマイナスの負債が1500万円あれば、プラスマイナスして3500万円の遺贈として扱われるということです。
2次受益者が配偶者であれば、5000万円でも相続税はかかりませんが、(1億6000万円までは相続税非課税)
配偶者以外が2次受益者の場合には、5000万円と3500万円では相続税の扱いが違うこともあります。
例)
法定相続人が2人
相続税基礎控除=4200万円
相続財産5000万円➢相続税有り 相続財産3500万円➢相続税無し
【受益者死亡により信託終了する場合】
受益者が死亡により信託が終了し、残余財産帰属権利者が所有者となる場合です。
残余財産帰属権利者は財産を遺贈により取得したものとして扱われますが、負債はマイナスとして計算することはできません。
信託法により、信託終了した場合には清算受託者(通常受託者が就任)が負債を弁済した後でなければ、残余財産帰属権利者に財産を給付することはできないのです。信託は、終了後も存在しており清算が終了して結了(完全な終了)となります。残余財産帰属権利者は、負債の弁済が済んだ後のプラスの財産を取得するのです。
【銀行は、受託者に融資している】
元々、委託者が認知症などで意思能力に問題があると、法律行為(契約など、当然融資を受けることも入る)をできなくなるため、受託者に管理処分権限を委譲しているのです。
銀行は、受託者を所有権者として法律行為をします。受託者には、信託財産を担保にする権限がありますから、抵当権を設定して融資を実施します。信託が結了すると、受託者は管理処分権限を失いますが、融資を完済しない限り抵当権抹消はできません。
信託が続いている間は、信託財産責任負担債務として信託財産から返済できますが、信託が結了すると信託財産からの返済はできなくなります。銀行は、融資先の受託者に返済を求め、返済が滞れば抵当権を行使して競売を申し立てることになります。
このように、信託が終われば負債は元受託者個人の負債みなされるので、残余財産帰属権利者にマイナス財産として引き継がせることができないのです。
【信託内借り入れをする場合の信託終了】
信託終了時に負債が残っていると、様々なトラブル発生の可能性があります。
まずは、終了の時点で負債が残らないように設計することが必要です。
・終了時に負債の清算ができるだけの金融資産を確保しておく。
・負債を完済してから終了するように信託終了事由を指定する。
などの対策が必要です。
一般的な、認知症対策の信託では信託内借り入れは無いと思いますが、賃貸不動産が含まれる場合などには銀行融資が必要に案ることがあります。信託をどのように終わらせるかの検討は慎重にしなければなりません。